Women in Robotics, Human Science and Society
パネルディスカッション開催報告
Women in Robotics, Human Science and Society


本WebPageでご案内 して おりましたパネルディスカッション"Women in Robotics, Human Science and Society"が, 3月8日(水)に,国際会議"The 9th International Conference on Intelligent Autonomous Systems (IAS-9) "のプログラムの一環として開催されました.

 会場となりました東大柏キャンパスは春の訪れを感じさせる陽気となり,それも手伝ってか,当初の予定を越える多数の方にお越し頂けました.

 ご参加くださいました皆様に,心より感謝申し上げます.






はじめにコーディネータ である産総研の本間敬子主任研究員から,ご挨拶とパネリストの皆様のご紹介を頂きました.

 そして,トップバッターとして本コミュニティを立ち上げました東大の大武美保子講師『ヒ ト科学・技術・社会へ向かう女性ロボティクス研究者』と題し て,本コミュニティのMotivation&Practiceについてお話いたしました【要旨】

 日本ロボット学会員全体における女性会員の割合は約2%,それに対して今回のIAS-9では約150名の参加者のうち女性が12名(なんと8%!)とい う衝撃的事実をまずご紹介いたしました.

 その12名の女性参加者のうちの9名が,今回のIAS-9のオーガナイズドセッションWomen in Robotics, Human Science and Technologyの 発表者です.このような,女性の発表者を集めたオーガナイズドセッションはこれまで例がなく,初の試みと言えます.

 また,本コミュニティは女性を特別視するものではなく,世代・分野・国家を縦横に駆け抜けるキーワードとして『女性』があったこと,そし てこのコミュニ ティの活動を通じてよりよい研究・開発活動を行い,次世代の(女性)研究者を勇気付けたいという目的をお話いたしました.

 ミネソタ大学のマリア・ジニ教授か らは『コンピュータサイエンス分野の女性を増やす戦略』と題しまして,ミネソタ大学で行われている,女子学生やネイティブアメリカンなどのマ イノリティの参加を促進する取り組みについてご紹介いただきました【要旨】

 小中学生を対象にしたサマーキャンプではAIBOの ダンスや,自分でロボットキットを作成し,その内容を発表することを学びます.女子高校生を対象とした,工学全般を扱う1週間のサマーキャンプでは,ロボ ティクス分野に1日を割き,国際学会を聴講し,実際の研究者と昼食を取って直接疑問をぶつけることができるそうです.また,AIBOを使ったプログラミン グやヴァーチャル・リアリティを実際に体験します.

 大学に入った後の女子大学生に対しても,ロボティクスを学ぶためにAIBOを用いたセミナーを始めとする講義や活動が様々あります.また,プログラミン グの初級コースでは2人1組で1つのプログラムを作成するペア・プログラミングを実施し,コミュニケーションが得意な女子学生が参加しやすい環境を作って います.

 女子大学院生に対しても大学全体学科で奨学金や 賞の創設,昼食会や様々なイベントなどを行っているそうです.





 日本でも『理系は報わ れているか』と副題のついた本が出版されていますが,ヨーロッパにおいても理工系職業は銀行員や証券マン,コンサルタントなどの職業と比べて 給料が高くないため,人気がないという傾向があるそうです.

 そのようなことを背景に,女子学生だけではなく理工系全体として人材をリクルートし,技術者,研究者を育成する必要があるとご指摘された上で,チュー リッヒ大学のロ ルフ・ファイファー教授は,『ロボットを楽しむ女子学生』と題して, ヨーロッパにおける女子学生への工学教育の展望について,お話くださいました【要旨】

 ヨーロッパにおいても,工学分野の大学生における女子学生の割合は約20%と少ないそうです(平成16年の調べによると日本の工学分野の 大学生における女子学生の割合は10.6%).そのため,工学だけでなく,芸術などの様々な分野を融合した取り組みが行われています.

 ドイツのフラウンホーファー大においては,7年生から10年生(12〜15歳)を対象に,LEGO Mindstormを 用いたロボット学習のプロジェクト『Roberta』が行われています.このプロジェクトは『女子学生を増やすには,まず女の子に 工学に興味を持ってもらおう』という目的で実施されました.女の子が興味を持ちやすいテーマを選んでいますが,もちろん男の子も参加できます.

 このような動きは,現在ではドイツのみならずEU全体に拡大しているそうです.

 最後にお話いただいた東 大の大坪久子講師『理工系分野の男女共同参画』と題されて,ご自身が幹事を務められていま す男女共同参画学協会連絡会(EPMEWSE)と,そこで行われたアンケート結果についてご紹介くださいました【要旨】

 2004年の調査結果では,日本の研究者全体における女性研究者の割合は11.6%と,OECD加盟国の中でも最も低いそうです(最も高 いのはラトビアの52.7%).

 研究に対する問題意識に男女の差は見られませんが,例えば生涯に持つ子供の数は女性研究者の場合,男性研究者よりも少ないという結果が出たそうです.女 性研究者は子供を産みにくい・育てにくい環境にあるということかもしれません.

 職場での地位や部下の人数,研究費などにも,性別や所属機関の差が見られます.出産・育児等で研究活動が休止してしまった女性研究者を支援するキャリア 開発や育児支援制度のために,活動を起こさなくてはならないのでは?とまとめられています.

 その1つとして日本学術振興会で は,出産・育児によって研究活動が中断してしまった研究者を対象に,円滑な研究職への復帰支援を目的とした特別研 究員制度が平成18年度から創設されたことをご紹介いただきました.

 また,連絡会から社会への働きかけとして,文部科学省の総合科学技術会議の第3期科学技術基本計画に対する提案と,その結果である女性研究者登用の数値 目標についてご紹介いただ き,また政府が行っている様々な男女共同参画活動をご紹介いただきました.




 各パネリストのお話の 後,会場の聴衆の方も交えた総合討論を行いました.

 討論の口火を切られたのはIAS-9のGeneral Chairでいらっしゃる東大の新井民夫教授で,育児が問題という大坪先生のご指摘を受けて,「ロ ボットによる育児支援というニーズはないのか?」というご意見を頂きました.

 5分でもロボットに子供を見てもらえると助かるのではないか?女性研究者にとって面白いトピックスではないか?というご意見に対して,コーディネータの 本間氏から,以前より福祉工学(Assistive Technology)の分野で研究が行われて研究が行われていることを説明されました.

 また,大坪氏からは,最近の幼稚園はカメラがついていて,携帯電話からその映像にアクセスできる場合もあるという状況をご紹介くださいました.

 また,ファイファー氏は「あ らゆる世代における啓蒙活動が必要である」というご意見を述べられました.それを受けて大坪氏より,女子中高生向けのサマースクールが行われてい ることをご紹介いただき,「よかったらロボティクスのブースも出してみてはどうでしょうか?」とご案内くださいました.

 これらの議論を受けて会場からは,これまでの女子に対する活動はまだまだ表面的なものであり,より早い段階,幼稚園レベルでの教育から変えていく 必要があるとのご意見を頂きました.さらにそのためには,そのような幼稚園レベルでの教育にも有効なロボットのプラットフォームが必要であるとの ご提案を頂きました.

 日本に限らず,他の国においてもそのような認識があるということは,今回のパネルディスカッションのトピックスであった『教育』が,ロボティクス全体と しての問題であると言えると思います.







 また,非線形力学がご 専門である聴衆の方からは,ご自身の専門を踏まえた考えとして「工学分野に女性を増やすためにはアトラクタ(初期状態に依存しない終極状態)を作り,ポジ ティブフィードバックの循環を作り出せればよい.つまり,キュリー夫人のようなシンボリックなアトラクタがロボティクス分野にも現れれば,自然と人 が集まる」とのご意見を頂きました.

 工学分野における女子学生や女性研究者を増やすためには,彼女達を惹きつけるヒーロー(ヒロイン)が必要である,とのご意見に,新井氏か らは「あなた方がなればよい!」との激励を受け,会場から笑いがこぼれると共に,女性研究者としては身の引き締まる感覚を味わいました.
 また,大武氏からは, ファイファー氏や大坪氏のお話を受けて,「理工系離れの問題と,男女共同参画や育児に関する問題は関連している」との意見が出されました.

 理工系が,証券や金融と比べて労働の割に給料が高くなく,子育てに必要な時間とお金が共に不足するようでは,理工系離れが進む上,男女共に仕事と家庭を 両立することが困難になると思われます.

 そのような問題はもちろん男女を問わない問題であり,女性だけで議論していても始まりません.そういう意味でも今回のパネリストとして ファイファー氏をお迎えできたのは,非常に喜ばしいことでした.

 会場からも「"Women in Robotics"の活動はあるが,男性を対象とした活動はあるのか?」とのご質問がありました.男女を問わず,本コミュニティもこのような問題に取り組 んでいきたいと思います.


 
 このようにして,私達のコミュニティの活動の第一歩である,パネルディスカッション"Women in Robotics, Human Science and Society"を無事に行うことができました.会場で行ったアンケート結果に よりますと,参加者の皆様にもおおむね好評だったようで,嬉しい限りです.

 アンケート結果からは,本コミュニティを意見交換の場として期待する皆様のご意見が伺えました.本コミュニティとしてもWebPageでの活動を中心 に,メンバ同士の意見交換や工学を志す女子学生への支援等,ゆっくりと息の長い活動を続けていきたいと思っております.皆様のご参加をお待ちしておりま す.



 今回のパネルディスカッション,及び私達のコミュニティ"Women in Robotics, toward Human Science, Technology and Society"の活動の内容をサイエンスライターの森山和道氏にご取材いただき,その 内容が『ロボコンマガ ジン No.45』に掲載されました.

  Women in Robotics ロボット研究現場における女性研究者の現状とこれから
  ロボコンマガジン No.45, pp. 100-101, 2006.



パネルディスカッション"Women in Robotics, Human Science and Society"

日 時 2006年3月8日(水) 10: 45〜12:15
会 場 東京大学柏キャンパス総合研究棟 6階大会 議室
主 催 IAS Society, Women in Robotics Community
共 催 IEEE Robotics and Automation Society (RAS) Japan Chapter
協 賛 IEEE Japan Council Women in Engineering Affinity Group,
男女共同参画学協会連絡会



パネリスト 大武 美保子(東京大学)
マリア・ジニ(ミネソタ大学)
ロルフ・ファイファー(チューリッ ヒ大学)
大坪 久子(東京大学)
コーディネータ 本間 敬子(産業技術総合研究所)
報 告 瀬戸 文美(東北大学)
撮 影 伊藤 加寿子(早稲田大学)
アンケート 尾川 順子(東京大学),長田 典子(関西 学院大学)
受 付 道木 加絵(愛知工業大学)
会場 北 佳保里,山野辺 夏樹(東京大学)




Women in Robotics @ IAS-9 実行委員
         本間 敬子(産業技術総合研究所),大武美保子(東京大学)
e-mail: women